東京地方裁判所 昭和26年(ワ)2508号 判決
原告 瀬古金松
被告 甲田周一郎 外二名
一、主 文
一、原告に対して、
被告甲田周一郎は、別紙目録<省略>第一及び図面<省略>記載の家屋を、
被告高浜勝三は、みぎ目録第二及び第四並びに図面記載の家屋部分を、
被告会社は、みぎ目録第三及び第四並びに図面記載の家屋部分を各明け渡せ。
二、原告に対し、
被告甲田は昭和二十五年五月一日から同年七月十日までは一ケ月七百円、翌十一日からみぎ建物明渡ずみに至るまでは一ケ月三千円の割による金員を、
被告高浜、同会社は、各自昭和二十六年二月二十六日からみぎ明渡ずみに至るまで一ケ月被告高浜は二千円被告会社は千円の割による金員を各支払え。
三、原告その余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は、各被告連帯負担とする。
五、本判決中第二、四項に限り、その執行前担保として各金二万円を供するときは、仮りに執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文第一、四項同旨並びに原告に対し被告甲田周一郎は金九万八千四百円と昭和二十六年五月一日以降その明渡ずみに至るまで一ケ月一万円の割による金員を、被告高浜、同会社は右金員のうち昭和二十六年二月十九日以降その占拠部分を明渡ずみに至るまで各自一ケ月金五千円の割による金員を支払えとの判決と仮執行の宣言を求め、請求原因として、
一、原告は、昭和八年九月十四日その所有にかかる主文に掲げた家屋を、被告甲田に対して賃料月金七十円、毎翌月末日払、期間の定めなく賃貸し、その後、当事者間で協議のうえ、賃料を昭和二十二年九月分から月百七十五円に、また、昭和二十三年十月分から月四百三十七円五十銭に、さらに、昭和二十四年六月分から月三千円に増額した。
そして、被告等の本件家屋の占有関係が主文第一項に掲げた通りであるところ、被告甲田は、
(1) 昭和二十五年当初から賃料支払を滞り勝ちとなり同年五月分からみぎ三千円の賃料を支払わず、
(2) 被告高浜をほしいままに本件家屋に居住させ、また、その階下表側間口一間半奥行約五間を事務所に改造したうえ、みぎ両被告相はかつて、昭和二十三年九月頃には多額の権利金と室料を徴してそれを被告会社に転貸し使用せしめ、
(3) さらに、みぎ階下改造のほか、その裏側にも新に玄関を設け、二階の廊下板間を四畳半と二畳の部屋に改造している。
二、そこで、原告は、被告甲田に対し昭和二十六年二月十七日前記一の(2) (3) の事実を理由として前示賃貸借契約を解除するとともに、また、(1) の未払賃料中、昭和二十五年六月一日から昭和二十六年一月末日までの延滞賃料の支払を求め、その催告後七日内に支払がないときはそれを停止条件としてみぎ賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、その書面は翌十八日に到達したが、やはりみぎ延滞賃料の支払もないので、いずれにしても本件賃貸借契約は適法に解除せられている。
したがつて、被告甲田は、本件家屋を原告に対し明け渡さなければならない。
また、被告高浜同会社も原告に対抗できる何等の権限なくして主文第一項に掲げた家屋部分をそれぞれ占拠するものであるから、これを原告に対し明け渡さなければならない。
三、そして、原告は、被告甲田に対しその延滞にかかる賃料と前示解除後の賃料相当額の損害金の支払を求めることができるものであるが、延滞賃料として前記約定の一ケ月三千円のうち、本件契約について地代家賃統制令の適用のあつた昭和二十五年五月一日から同年七月十日までの分はその限度である一ケ月七百円の割で、同月十一日から明渡ずみに至るまでは、一ケ月一万円の割の相当賃料を、また、前示解除後はそれと同額の損害金の支払を求めるもので本件家屋の坪数その他諸般の情況を考え併せると前示昭和二十五年七月十一日以降の月一万円の賃料は妥当であると述べ被告甲田、同高浜の抗弁を否認し、仮りに、前示転貸を知つた後もその賃料を受領していたとしても、その当時異議をとどめてこれを受領したもので、賃料を受けとつたことがその転貸に対する承認とはならないと述べた。<立証省略>
被告等はいずれも原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、
被告等は本件家屋の各被告占有関係が原告主張通りであることは認める。原告主張事実中その他の点では、
イ 被告甲田代理人は、
一の事実は全部認める。二はその意思表示のあつたことを認め、その余を否認し、三は本件家屋の停止統制額が原告主張通りであること並びに昭和二十四年六月分から賃料三千円であることを認め、その余を否認する。後記被告高浜の抗弁を援用する。と述べ、
ロ 被告高浜代理人は、
一の(1) は不知、(2) (3) のうち被告会社から多額の権利金と室料を徴していることを否認する。そのほかの一の事実は認める。二は不知、三は約定賃料が昭和二十四年六月分から月三千円に値上されたこと、昭和二十五年五月当時原告主張通りの停止統制額であつたことを認め、その余を否認すると述べ、
抗弁としてまず、原告主張の催告は、前示停止統制額をこえた過大な金員の支払を求めたものであるから、その催告に基ずく解除は効力がない。のみならず、原告主張の本件家屋の改造については、原告の承諾が予めあつたものである。すなわち、本件家屋は当初被告高浜において原告から賃借居住したもので、その後賃借人名義を被告甲田に変えたが、被告高浜はひきつづきここに同居し現在に至つた。そして、被告高浜は、賃借の当初から本件家屋を店舗として使用するために適当な改造を施すことを原告の家屋管理人から許諾されていたものである。
みぎ次第で、被告高浜の占拠は、被告甲田からの転借によるものでなく、前示名義変更後は被告甲田とともにこれを賃借していたものである。
また、被告高浜が被告甲田と相はかつて本件家屋を被告会社に転貸したのは、当時原告から本件家屋を買いとるべきことを求められていたので、これを買いとることができる見込でその資金の一部を得ようとして被告会社に賃貸し、かつ、権利金を受けとつたものであるが、その後、みぎ買取の見通しが困難となるや、原告管理人からみぎ転貸についての承諾を得たものである。
とのべ、
ハ、被告会社代表者は、一の(2) (3) を認める。その余は不知。二の事実は不知。三は争うと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が昭和八年九月十四日その所有に属する主文に掲げた家屋を被告甲田に対して賃料月七十円、毎翌月六日払、期間の定めなく賃貸し、その後、当事者間で協議のうえ賃料を昭和二十二年九月分から月百七十五円に、また、昭和二十三年十月分から月四百三十七円五十銭に、さらに、昭和二十四年六月分から月三千円に増額したことは原告と被告甲田、同高浜間に争のないところである。原告は、その賃貸借契約が解除されたと主張するので、まず、被告甲田の賃料不払による解除の成否を考察する。
同被告が昭和二十五年五月分から前示月額三千円の賃料を支払つていないため、原告が同被告に対し昭和二十六年二月十七日みぎ不払賃料中昭和二十五年六月一日から翌年一月三十一日までの分としてみぎ三千円の割による賃料の支払を求め、その申し入れ後七日間内に支払がないことを停止条件として前示賃貸借契約が解除せられる旨の契約解除の意思表示をなし、その書面が翌十八日同被告に到達したこと、そして、同期間内にその支払がなされなかつたことは右当事者間に争のないところである。
しかるところ、みぎ催告の金額が本件契約の地代家賃統制令に定める停止統制額をこえた額であることから、かかる催告を前提とした契約解除を有効と見るかどうか問題となる。さて、本件家屋の停止統制額は前示累次にわたる家賃増額の経過と証人緒方茂夫の証言、被告高浜本人訊問の結果に徴し昭和二十五年六月一日当時において一ケ月七百円と認められるので、前示催告にかかる金額は一ケ月分について二千三百円を超過したものと言わねばならない。しかし、また、その成立に争のない甲第二、第四号証、被告高浜本人訊問の結果から、本件家屋が地代家賃統制令第二十三条第二項第三号に該当し、同年七月十一日からは同令の適用を除外されたものと認められるので、その頃、新たな約定のなされなかつた以上は同日以降引きつづき前記一ケ月三千円の賃料と認めるのを相当とする。そうすると、原告の催告金額は約四十日分について過大であることが認められるが、その超過分も催告総額に照らせば僅少の超過額としか認められないうえ、この催告をうけた被告甲田が、仮りに法令の限度での賃料だけを提供した場合、原告がその受領を拒否するものとも思われないからこの催告を前提とする解除を有効と言わねばならず、被告甲田はその他の点の判断に進むまでもなく本件家屋を明け渡す義務を免れない。
つぎに、被告高浜は直接原告から本件家屋を賃借した旨抗弁し、被告高浜本人訊問の結果中にはそれにそう供述があるが、原告と被告甲田、同高浜間にその成立に争のない甲第二、第五号証並びに前示証言にてらしみぎ供述を信用することができず他にみぎ主張を認めることのできる証拠がなく、被告高浜は、被告甲田から転借していたものと言わねばならない。そして、被告高浜、被告会社は、みぎ解除後も原告に対しその占有を対抗できる権限をもつことを認定できる主張立証がないのであるから、その他の点について判断をするまでもなく明渡義務を免れない。
しかるところ、本件家屋の家賃が前認定の通り昭和二十五年五月一日以降一ケ月金七百円、同年七月十一日以降は一ケ月金三千円であるから、原告は被告甲田に対しみぎ家賃金と前認定の解除あつた日の翌日の昭和二十六年二月二十六日からの賃料相当の損害金として一ケ月金三千円の割で、また、被告高浜、同会社に対してはみぎ昭和二十六年二月二十六日から共同不法占拠者として被告甲田と連帯して前示各占拠部分に応じ被告高浜においては月二千円、被告会社においては月千円をみぎ損害金として相当と認めるからその支払をそれぞれ求めることができるところ、原告は昭和二十五年七月十一日以降の相当賃料を一ケ月一万円となし、したがつて、前記解除後の賃料相当の損害金も一ケ月一万円の割で又被告高浜同会社に対してはいずれも一ケ月五千円の割でその支払を求めるが、その点の原告主張を認めるに十分な証拠がないから、前示限度でのみ原告請求を認めるべきものとする。
それ故、原告の請求は前示認定の限度でこれを正当として認容しその余の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西岡悌次)